シェアオブボイスとは、そのカテゴリの広告費全体のうち、自社が占める割合です。英語では share of voice、略してSOVと書きます。そして他の条件が同じなら、SOVが市場シェア(SOM)を上回っている企業は伸びやすく、下回っている企業は縮みやすいという関係が、50年前から知られています。予算を「いくら使うか」ではなく「競合と比べてどうか」で決める、という考え方です。だから予算の据え置きは、現状維持ではありません。
出典:Les Binet & Peter Field「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」(LinkedIn B2B Institute)。数値の限界は本文に明記しています。
広告予算の議論は、「去年いくらだったか」から始まることが多くあります。金額だけで見ていると、競合が増やしたぶんは数字に表れません。SOVは、そこに物差しを入れる考え方です。
SOVとSOMの差が、伸び縮みを決める
Les BinetとPeter FieldがLinkedIn B2B Institute向けにまとめた報告書は、5つの原則の1番目にこれを置いています。
In B2C marketing, there is a well-known relationship between a brand’s “share of voice” (typically defined as its share of all category advertising expenditure) and its rate of growth. Brands that set their share of voice (SOV) above their share of market (SOM) tend to grow (all other factors being equal), and those that set SOV below SOM tend to shrink.
── Binet & Field「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」p9(LinkedIn B2B Institute)
そして、その差そのものに名前が付いています。
The rate at which a brand grows or shrinks tends to be proportional to its “extra” share of voice (ESOV), defined as the difference between SOV and SOM.
── 同 p9
ESOV(エクストラ・シェア・オブ・ボイス)= SOV − SOM。この差がプラスなら伸び、マイナスなら縮む。伸び縮みの速さは、差の大きさに比例するとされています。
破線は、SOVとSOMが等しい線です。この線より上にいるか下にいるかが分かれ目で、金額の絶対値ではありません。報告書は「The share of voice rule has been known for 50 years and holds true in B2C today(この法則は50年前から知られており、今日のB2Cでも成り立っている)」と書いています。(出典:同 p9・Figure 3)
B2Bでも、同じ関係が成り立つのか
ここまではB2Cの話です。報告書の貢献は、これがB2Bでも成り立つかを検証した点にあります。
Our data suggests that it does, with a strong and statistically significant correlation between market share growth and ESOV for B2B brands. What’s more, the size of the response is almost identical to that seen in B2C.
── 同 p10
効果の大きさは、具体的な数字で書かれています。
For consumer brands, 10% extra share of voice causes market share to rise by 0.6 % points per annum, all else being equal. For B2B, the corresponding figure is 0.7%.
── 同 p10
ESOVを10ポイント積むと、市場シェアが年あたり0.6〜0.7ポイント上がる。B2Cが0.6、B2Bが0.7です。報告書は「B2BはB2Cとほぼ同じように反応する」と結論しています。さらに「B2CとB2Bの差より、B2Cのカテゴリ間の差のほうが大きい」とも書いています。
0.6・0.7という数字には、著者本人が付けた但し書きがあります。
報告書は、同じ段落でこう断っています。「If our B2B finding can be extended generally to all B2B businesses (and we stress that these results are tentative)(この発見をすべてのB2B企業に一般化できるとすれば ── ただしこの結果は暫定的だと強調しておく)」。
母数はIPA Databankの1998年から2018年のB2B事例で、件数は50件未満です。しかもこのデータベースはIPA Effectiveness Awardsへの応募事例で構成されているため、効果の出たキャンペーンに偏っています。
「10%積めば0.7%上がる」は、自社の計画値には使えません。使えるのは「競合と比べた取り分で予算を見る」という考え方のほうです。
なぜ、金額ではなく取り分で見るのか
数字を目標に使えないなら、何のために知るのか。予算の議論の土俵を変えられるからです。
| 金額で決める | 取り分で決める | |
|---|---|---|
| 問い | いくら使うか | 競合と比べてどうか |
| 基準 | 去年の実績、売上比 | カテゴリ全体の広告費 |
| 競合が予算を増やしたとき | 気づけない | 取り分が減るので分かる |
| 削ったときに起きること | その期のCVで判断する | 取り分の低下として見える |
金額で決めていると、競合が増やしたぶんだけ自社の取り分は静かに減ります。予算据え置きは、現状維持ではありません。取り分で見て初めて、据え置きが後退であることが分かります。
では、何から手をつけるか
ここからは報告書の記述ではなく、私たちのやり方です。順番があります。
- カテゴリの範囲を決める。SOVは「カテゴリ全体の広告費に占める割合」なので、カテゴリの定義が変われば数字も変わります。ここを曖昧にしたまま計算しても、意味のある数字は出ません
- 自社の市場シェア(SOM)を出す。正確な数字が取れない場合でも、桁が分かれば議論はできます。SOVとSOMのどちらが大きいかが分かれば十分です
- 取り分の推移を、四半期ごとに見る。金額ではなく取り分です。下がっていれば、据え置きでも後退しています
ここでよくぶつかるのが、「カテゴリ全体の広告費が分からない」という壁です。厳密な数字は取りにくいのが実情です。私たちは、完全な把握を待たずに、主要な競合数社との相対で見ることをお勧めしています。順位が分かれば、判断はできます。
取り分の総額が決まったら、次はその中身の配分です。需要創出と需要獲得を、どの接点にいくら割り当てるか。CRM戦略設計のページに、その配分を決めるところまでの考え方をまとめています。
よくある質問
シェアオブボイスとは、何ですか?
そのカテゴリの広告費全体のうち、自社が占める割合です。報告書は「typically defined as its share of all category advertising expenditure(通常、カテゴリ全体の広告支出に占める割合として定義される)」と書いています。金額ではなく割合である点が要です。(出典:Binet & Field「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」p9)
ESOVとは何が違うのですか?
ESOVは、SOVからSOM(市場シェア)を引いた差です。報告書は「defined as the difference between SOV and SOM」と定義しています。SOVが単独の割合であるのに対し、ESOVは市場シェアと比べた超過分です。伸び縮みの速さは、この差に比例するとされています。(出典:同 p9)
ESOVを10ポイント積めば、シェアは0.7%上がりますか?
そのまま計画には使えません。報告書にはB2Cで0.6ポイント、B2Bで0.7ポイントという数字がありますが、同じ段落で「we stress that these results are tentative(この結果は暫定的だと強調しておく)」と断っています。母数はIPA Databankの1998年から2018年のB2B事例で50件未満、しかもIPA Effectiveness Awardsへの応募事例で構成されているため効果の出たものに偏っています。目標値としてではなく、予算の見方を変えるための考え方として使えます。(出典:同 p10)
カテゴリ全体の広告費が分からない場合はどうしますか?
厳密な数字が取れないのが実情です。その場合、私たちは主要な競合数社との相対で見ることをお勧めしています。全体に占める割合が出せなくても、競合と比べて増えているか減っているかが分かれば、判断はできます。大事なのは絶対値ではなく、据え置きが後退になっていないかを見ることです。
※ 0.6ポイント・0.7ポイントという効果量は、B2B事例数50件未満・著者による「暫定的」との明記・IPA Effectiveness Awardsへの応募事例で構成されることによる偏りがあります。目標値には使えません。
※ Figure 4には業種別のESOV効率が掲載されていますが、PDFからの抽出で数値と業種の対応が確定できなかったため、本記事では業種別の値を扱っていません。