メンタルアベイラビリティとは、買う場面になったときに自社が思い浮かぶ度合いのことです。知られているかどうかではなく、思い出されるかどうかを指します。この2つは別物で、そこを分けないと「認知は取れているのに問い合わせが来ない」という状態の原因が見えません。
出典:Les Binet & Peter Field「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」(LinkedIn B2B Institute)ほか。数値の限界は本文に明記しています。
この言葉は、Ehrenberg-Bass研究所を中心に使われてきた概念で、B2Bでも成り立つことをLes BinetとPeter Fieldが報告書にまとめています。5つの原則のうち4番目が、そのまま「Maximize Mental Availability」です。
人は、思い出しやすいほうを選ぶ
報告書は、なぜこれが効くのかを行動経済学から説明しています。
Any campaign needs to maximise its impact on those who see it. The key metric here is what psychologists call “mental availability”.
── Binet & Field「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」p20(LinkedIn B2B Institute)
そして、その中身にあたるのが「利用可能性ヒューリスティック」です。
One of the most important shortcuts is The Availability Heuristic. This mental rule-of-thumb says that, given a choice between several options, people tend to prefer the one that comes to mind most easily.
── 同 p20
訳すと「複数の選択肢があるとき、人はいちばん簡単に思い浮かんだものを選びがちだ」となります。報告書はダニエル・カーネマンの言葉も引いています。「人間にとって独立した思考とは、猫にとっての水泳のようなものだ。できはするが、やりたがらない」。そして脳は「結論に飛びつくための機械」だと。
B2Bでも、成り立つのか
「B2Bは稟議も相見積もりもあるので、思い出しやすさでは決まらないのでは」というご指摘をいただくことがあります。報告書も、その前提に触れています。
Mental availability is often assumed to matter much less in B2B. Buying decisions are assumed to be more carefully researched, considered and scrutinised in the business world, even amongst SMEs.
── 同 p20
そのうえで、反例として1970年代のIBMの広告を挙げています。「nobody ever got fired for buying IBM(IBMを買ってクビになった人はいない)」。報告書はこれを、感情に直接訴えることで(by appealing directly to the emotions)メンタルアベイラビリティを築いた例と位置づけています。
検討がていねいであることと、候補に入ることは別の話です。比較検討は、候補に挙がった後に始まります。思い出されなければ、比較の土俵に上がりません。
目的別に、効き方が違う
報告書は、キャンペーンの主目的ごとに「非常に大きな事業効果」がどれだけ報告されたかを集計しています(Figure 8)。
話題化(Fame)を主目的にしたキャンペーンが、いちばん多く「非常に大きな事業効果」を報告しています。報告書は Fame を「getting the campaign talked about or shared(キャンペーンが話題にされる、共有されること)」と定義しています。ただし、この数字は目標値には使えません。B2B事例は50件未満で、著者自身が結論を「暫定的」と明記しています(詳細は直後の囲み)。
この棒グラフを「3倍効く」と読めない理由を、先に書きます。
Figure 8は、Figure 6(予算配分)と同じIPA Databankから出ています。報告書自身が、B2Bの事例数は50件未満で、結論は「tentative(暫定的)」だと書いています。さらにこのデータベースはIPA Effectiveness Awardsへの応募事例で構成されているため、効果の出たキャンペーンに偏っています。
「話題化を狙えば3倍効く」とは読めません。読めるのは「アクティベーションだけを目的にしたキャンペーンは、大きな効果の報告が最も少ない」という向きのほうです。
メンタルアベイラビリティと認知は、何が違うのか
ここは実務で混ざりやすい部分です。認知は「知っているか」、メンタルアベイラビリティは「その場面で思い浮かぶか」です。
| 認知(Awareness) | メンタルアベイラビリティ | |
|---|---|---|
| 問い | この会社を知っていますか | この課題のとき、どこが浮かびますか |
| 聞き方 | 社名を見せて聞く(助成想起) | 社名を見せずに聞く(純粋想起) |
| 上がりやすさ | 露出量で上がる | 場面と結びつかないと上がらない |
| 足りないときの症状 | そもそも名前が出てこない | 知られているのに、声がかからない |
「認知は取れているのに問い合わせが来ない」は、この差から生まれます。名前は知られている。ただ、困った瞬間に思い出されていない。足りないのは露出量ではなく、場面との結びつきです。
では、何から手をつけるか
ここからは報告書の記述ではなく、私たちのやり方です。3つあります。
- 「どんな場面で思い出されたいか」を言葉にする。「CRMに強い会社」ではなく「獲得は回っているのに、既存からの売上が伸びないと気づいたとき」。場面まで降りていないと、作るものの評価軸が決まりません
- 純粋想起で測る。社名を見せて「知っていますか」と聞くと、実態より高く出ます。社名を出さずに「この課題のとき、どこを思い浮かべますか」と聞くと、実態に近い答えが返ります。商談の冒頭で聞くだけでも傾向は取れます
- 話題にされる形を1つ作る。報告書の Fame は「talked about or shared」です。読まれるだけでなく、人に転送される形になっているかが分かれ目です
ここで多くの場合ぶつかるのが、「思い出されたい場面が、社内で一致していない」という壁です。営業と経営で違う場面を想定していることも珍しくありません。予算をどちらに寄せるかという話は、この一致の後に来ます。
思い出されたい場面が決まったら、次はどの接点に置くかです。リスト獲得・Push・Pullのどこで想起をつくるかは、施策の種類によって変わります。CRM戦略設計のページに、目的と接点の掛け算で整理した6つのマスを載せています。
よくある質問
メンタルアベイラビリティとは、簡単に言うと何ですか?
買う場面になったときに、自社が思い浮かぶ度合いです。報告書は「Any campaign needs to maximise its impact on those who see it. The key metric here is what psychologists call “mental availability”」と書いています。背景にあるのは利用可能性ヒューリスティックで、「複数の選択肢があるとき、人はいちばん簡単に思い浮かんだものを選びがち」という心理の働きです。(出典:Binet & Field「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」p20)
認知度とは違うのですか?
違います。認知は「知っているか」で、社名を見せて聞けば高く出ます。メンタルアベイラビリティは「その場面で思い浮かぶか」で、社名を見せずに聞きます。「認知は取れているのに問い合わせが来ない」という状態は、この差から生まれます。足りないのは露出量ではなく、場面との結びつきです。
B2Bでも効くのですか? 稟議も相見積もりもあるのですが。
報告書も、その前提に触れたうえで効くとしています。「Mental availability is often assumed to matter much less in B2B(B2Bでは重要性が低いと思われがちだ)」と書いたうえで、1970年代のIBMの「nobody ever got fired for buying IBM」を、メンタルアベイラビリティを築いた例として挙げています。検討がていねいであることと、候補に入ることは別です。比較検討は、候補に挙がった後に始まります。(出典:同 p20)
話題化を狙えば、3倍効くということですか?
そうは読めません。Figure 8で Fame が2.2、アクティベーション目的が0.7と出ていますが、この数字は目標値には使えません。B2Bの事例数は50件未満、報告書自身が結論を「暫定的」と書いており、データベースはIPA Effectiveness Awardsへの応募事例で構成されているため効果の出たものに偏っています。読めるのは「アクティベーションだけを目的にしたキャンペーンは、大きな効果の報告が最も少ない」という向きまでです。(出典:同 Figure 8/Source: IPA Databank, 1998-2018 B2B cases)
・Ehrenberg-Bass Institute「Identifying and Prioritising Category Entry Points」ページを見る(2026年8月17日閲覧)── メンタルアベイラビリティの位置づけ
※ Figure 8の数値は、B2B事例数50件未満・著者による「暫定的」との記載・IPA Effectiveness Awardsへの応募事例で構成されることによる偏りがあります。目標値には使えません。
※ カーネマンの言葉は、報告書内での引用として記載しています。