B2Bで感情に訴えることは、効くのか
B2Bでも、感情に訴える広告は効きます。ただし効くのは長期です。Les Binet と Peter Field の報告書は、第5原則の見出しでこう書いています ──「B2Bでは、感情に訴えるメッセージのほうが長期に効き、 […]
読む需要創出とは、まだ買う気のない人に、自社を覚えてもらう活動です。いま買う気のある人を取りにいく需要獲得とは、狙う相手が違います。広告の費用対効果が悪くなったとき、運用の問題に見えて、取りにいける人の数が先に尽きていることがあります。
この記事の数値はすべて出典つきです。推定であるもの、サンプルが小さいものは、その旨を明記しています。
「需要創出」という言葉は、社内では「認知施策」「ブランディング」「上流の投資」などと呼ばれ方が揺れます。呼び方が揺れると、予算の話をするたびに「それは何の予算か」から始めることになります。まず言葉を1つに決めます。
違いは「いつ効くか」ではなく「誰に向けるか」です。ここを取り違えると、需要創出の施策を需要獲得の指標で測ることになります。その測り方をする限り、結論は「効果が無い」になりがちです。
| 需要獲得 | 需要創出 | |
|---|---|---|
| 向ける相手 | いま探している人 | まだ探していない人 |
| やること | 見つけてもらう・比較で勝つ | 思い出してもらう |
| 代表的な手段 | 検索広告、比較記事、リターゲティング | 調査の発表、事例、動画、イベント |
| 効き方 | その月に出る | 時間差で出る |
| 測り方 | CV数・CPA | 指名検索、想起、問い合わせの質 |
需要創出をCPAで測ると、数字の上では負けます。いま買う気のない人に向けているのだから、その月のCVには出ません。測る物差しを分けないまま予算を分けると、翌期に削られるのは需要創出のほうです。
需要獲得は、すでに存在する需要を取り合う活動です。取り合う相手が増えれば単価は上がり、取り尽くせば伸びは止まります。運用の巧拙ではなく、母数の構造の問題です。
この構造をよく説明するのが、Ehrenberg-Bass研究所のJohn Dawes教授が2021年に示した「95:5」という考え方です。LinkedIn B2B Instituteが広めました。
The majority of your customers are out-market at any given time. The key to growing your customer base and cash flows is to prioritize out-market, brand marketing over time.
── LinkedIn B2B Institute「How B2B Brands Grow」(2026年8月13日閲覧)
訳すと「顧客の大半は、any given time=任意の時点では market の外にいる。顧客基盤とキャッシュフローを伸ばす鍵は、時間をかけて market の外側へのブランド投資を優先することだ」となります。
ただし「95:5」という比率は、そのまま自社には当てはまりません。提唱したDawes教授自身が、こう書いています。
The 95% figure is not meant to be a precise rule. We’re using it as a heuristic to get the idea across
── Professor John Dawes(Ehrenberg-Bass Institute, 2021年5月/2026年8月17日閲覧)
「95%という数字は、正確なルールのつもりではない。考え方を伝えるための経験則として使っている」。提唱者がそう明言しています。同じページには、自社の割合は自分で出せるとも書かれています。
If you know the average interpurchase time for your category you can readily calculate the proportion
── 同ページ(2026年8月17日閲覧)
自社の買い替え周期が分かっているなら、95:5を借りる必要はありません。周期から自分で計算できます。
周期が短いカテゴリでは、市場にいる割合はもっと大きくなります。自社の買い替え周期が分かっていれば、この計算は自分でできます。借りるべきは比率ではなく、「いま探している人は、母数の一部でしかない」という構造のほうです。(出典:Professor John Dawes, Ehrenberg-Bass Institute「Advertising effectiveness and the 95-5 rule」2021年5月/2026年8月17日閲覧)
やることは1つです。いまの予算のうち、いくらが需要獲得で、いくらが需要創出かを出す。分けて数える習慣がないと、配分は需要獲得側に寄りやすくなります。分けて初めて、寄り方が見えます。
配分の目安として引かれるのが、Les BinetとPeter FieldがLinkedIn B2B Institute向けにまとめた「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」です。IPA Databankの1998年から2018年の事例をもとに、業種ごとの最適配分を出しています。
Figure 6の数字を目標にできない理由は、3つあります。いずれも報告書自身が書いていることです。B2Bの事例数は50件未満で、著者は結論を「tentative(暫定的)」「rough estimate(粗い見積もり)」と書いています。さらにIPA Databankは効果の出たキャンペーンに偏っています(すべてIPA Effectiveness Awardsへの応募事例のため)。そして報告書は、B2Bの46:54という数字の直後にこう書いています。「Note that this ratio should not be followed too precisely, rather it is a guiding principle.(この比率は厳密に従うべきものではなく、あくまで指針である)」。B2Cの60:40についても原文は「最適な配分はカテゴリ・価格帯・ブランド規模で変わる」と続けています。使えるのは「自社がどちらに寄っているか」を見る物差しまでです。
需要創出が「とりあえず発信する」と読み替わると、話が量に落ちます。空白があるのは量ではなく、質のほうです。
EdelmanとLinkedInが7年続けている調査(2025年版・回答者は約2,000名のグローバルな意思決定者)に、こうあります。
52% of decision-makers and 54% of C-suite executives say they spend an hour or more each week reading thought leadership content
less than half said the overall quality of thought leadership they read is good, and only 15% described it as very good
── LinkedIn公式ブログ(Edelman × LinkedIn B2B Thought Leadership Impact Report/2026年8月16日閲覧)
意思決定者の半数以上が週1時間以上読んでいるのに、「質が非常に良い」と言われているのは15%だけです。読む時間は取られている。ただ、読む価値のあるものが足りていない。ここが空白です。
同じ調査で、75%が「あるコンテンツをきっかけに製品やサービスを調べた」と答え、70%の経営層が「いまの取引先を見直すきっかけになった」と答えています。需要創出は、既存の取引関係を動かす力を持っています。
※ この調査はEdelman公式のPDF本体が取得できなかったため(2026年8月16日時点で403)、上記はLinkedIn公式ブログに掲載された数値です。PDF本体との一致は未確認です。
ここからは報告書の記述ではなく、私たちのやり方です。順番に意味があります。
ここでよくぶつかるのが、「思い出してもらう場面が決まっていない」という壁です。誰が、どんな状況で、何に困ったときに自社を思い出すのか。この「思い出されやすさ」そのものを指す言葉がメンタルアベイラビリティで、その構成部品として場面を書き出す考え方がカテゴリーエントリーポイントです。予算の総額をを競合と比べてどう決めるかは、シェアオブボイスの考え方に移ります。私たちが最初に揃えるのも、この場面の一行です。
予算を2つに分けたあと、何をどう並べるか。需要創出と需要獲得を、リスト獲得・Push・Pullの3つの接点に割り当てて配分を決める考え方を、CRM戦略設計のページにまとめています。6つのマスのうち、どこが空いているかが分かる形にしてあります。
社内では「認知施策」「ブランディング」「上流投資」と呼ばれることが多い活動です。ただし呼び方を統一しないと、予算の議論のたびに定義から始めることになります。「まだ探していない人に向ける投資」と定義を1つに決めることをお勧めします。海外の文献では brand marketing、対する需要獲得は activation と表記されるのが一般的です(出典:Binet & Field「THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing」)。
目標値としては使えない、というのが正直なところです。よく引かれるのはBinet & Fieldの数字で、B2C平均が62:38、B2Bが46:54です。ただしB2Bの事例数は50件未満、著者自身が「暫定的」「粗い見積もり」と書いており、データベースは効果の出たキャンペーンに偏っています。使い方としては、自社の現状配分を出して「どちらに寄っているか」を見る物差しまでにとどめてください。(出典:同上 Figure 6/Source: IPA Databank, 1998-2018 B2B cases)
そのままは当てはまりません。提唱者のDawes教授自身が「The 95% figure is not meant to be a precise rule. We’re using it as a heuristic to get the idea across(95%という数字は正確なルールのつもりではない。考え方を伝えるための経験則として使っている)」と書いています。同じページに「自社カテゴリの平均購買間隔が分かれば、その割合は自分で計算できる」ともあります。周期5年なら1年で約20%、四半期で約5%という計算です。比率を借りるのではなく、自社の周期から出せます。(出典:Professor John Dawes, Ehrenberg-Bass Institute「Advertising effectiveness and the 95-5 rule」2021年5月/2026年8月17日閲覧)
期間を断言できる一次情報を、私たちは確認できていません。「時間をかけて優先する」という記述はありますが、月数の目安は取れていません。そのため私たちは、期間ではなく先行指標で判断することにしています。指名検索の推移と、問い合わせ時点で自社を知っていた割合。この2つは数か月で動き始めます。分かり次第、本記事に追記します。
執筆者
永野 陽平
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