AIエージェントが買う時代に、自社に残る顧客データは何か
エージェンティックコマースで店に渡る顧客データは、名前・メール・電話番号・住所など注文に要る情報までで、何と比べてなぜ選んだかは渡りません。OpenAIの仕様書とShopifyの記述をもとに、自社で持てる3つの打ち手を順に整理しました。
読むAIエージェントを入れる前に揃えるのは、その用途に対して「AI ready」なデータです。どのエージェントを入れるかは、その後で決められます。Gartnerの2025年調査(マーケティングテクノロジーリーダー413名・2025年6〜8月実施)では、回答者の半数が、AIエージェントの導入に必要な技術とデータの基盤が自社に整っていないと答えています(Gartner、2025年10月29日発表。根拠の節で引用します)。日本の企業を対象にした調査ではなく、回答者の国・地域の構成は発表に記載がありません。
AIエージェントの導入を検討し始めると、ツールの比較から入ることが少なくありません。それは自然な順番です。エージェントは画面で動いて見え、その下にあるデータの準備は目に見えないからです。AIエージェントとは、Anthropicの定義では、LLMが自らの処理とツールの使い方を動的に決めていくシステムのことです(原文[8])。LLMとは大規模言語モデルのことで、文章を扱うAIの土台です。
AI readyなデータ(AI-ready data)とは、その用途に対して代表的で、そのAIモデルを学習させる、または動かすのに必要なあらゆるパターン・誤り・外れ値・想定外の出現を含んだデータのことです(Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」、2025年2月26日発表。訳は私たちのものです)。同じリリースは、AI readyであることを証明するのは、メタデータが揃っていることを土台に、用途に合わせ(align)・品質を確かめ(qualify)・扱いを決めていく(govern)取り組みだ、と書いています(原文[2])。メタデータとは、データについての説明書きのことで、「この列は何を意味するか」「いつ更新されたか」がその中身です。
身近な例は、問い合わせ対応です。「注文した商品はいつ届くか」「返品したい」に答えるエージェントは、注文と配送の状況、問い合わせてきた人の会員情報、返品の規定を読みに行きます(作例です)。
答えの質は、部品が読みに行く先(文書・システムの値・履歴)が用途に対して揃っているかで決まる、というのが私たちの見立てです。検索は文書を読み、ツールは外部のシステムから値を取り、記憶は過去のやりとりを持ちます。
揃っていないと何が起きるかを、作例で表にします。
| 欠けているもの | エージェントに起きること(作例) | 揃えるもの(Gartnerの要件に私たちが当てはめたもの) |
|---|---|---|
| 配送状況の鮮度 (更新が翌朝のまとめ処理) | 今日の朝に発送済みなのに「準備中」と答える | 品質を確かめる(qualify)── 用途が求める更新間隔 |
| 問い合わせた人と注文の紐づけ (チャットのIDと会員IDが別) | 本人の注文を引けず、一般論の回答になる | 用途に合わせる(align)── 答えるのに要る結びつき |
| 項目の意味の説明書き (「status=3」の意味がどこにも無い) | 番号を読み違え、違う状態を答える | メタデータ ── 列の意味・更新日時・管理者 |
| 例外の記述 (セール品は返品不可、が規定の文書に無い) | 規定どおり「返品できます」と答える | 用途に合わせる(align)── 外れ値・例外まで含めて代表的であること |
| 見せてよい範囲の決めごと (本人確認の前に何を出してよいか) | 確認の前に注文の中身を読み上げる | 扱いを決める(govern)── 誰に、どこまで |
問い合わせ対応のエージェントを想定した私たちの作例です。右の列の当てはめも私たちの整理で、Gartnerの資料にこの表はありません。
5行のどれも、データの量が足りないから起きるのではありません。用途に対して、鮮度・結びつき・意味・例外・扱いの決めごとが揃っていないから起きます。見る場所は、配信の出し分けを扱った出し分けができないのは、データが足りないからではないと同じです。違うのは、エージェントは欠けがそのまま答えの誤りとして外に出る点です(私たちの見方です)。
Gartnerの解説記事は、AIの用途ごとに必要なデータを記述するものとし、それは最初から完全に定まっているとは限らず、使われる中で見えてくる、と書いています(根拠の節で引用します)。だから最初の用途は1つに絞ります。「配送状況の問い合わせに答える」なら、注文・配送・会員の3つ。「返品の可否に答える」なら、返品規定と購入時の条件(セール品かどうか)が加わります。列挙して初めて、何が欠けているかが見えます。
手順は5つです。①顧客管理やMA(マーケティングオートメーション)ツールの管理画面で、顧客を1人選ぶ。②打ち手1で列挙した項目が、その人の画面で埋まっているかを見る。③埋まっている項目の更新日時を見て、今日の値か、前日以前の値かを確かめる。④「status」「区分」のように番号で入っている項目は、意味を書いた定義書が社内のどこにあるかを探す。⑤同じことを10人分やる。③で前日以前の値しか無ければ鮮度が、④で定義書が見つからなければメタデータが揃っていません。手元に残るのは「この用途には、この項目が揃っていない。それ以外は揃っている」という一覧です。次にやることが、その一覧で決まります。
「本人確認が済むまで、注文の中身は出さない」のように、1行で書けるところから決めます。用途を2つめに増やしたときに、この1行も見直します。
先に揃えるのはデータ側です。エージェントを先に選んでいても、データ側はあとから揃え直せます。エージェントの費用がどこで動くかはAIエージェントの費用は、何で決まるのかで扱いました。
要点を先に書いてから引用します。日本語はすべて私たちの訳で、原文は末尾にまとめました。
要点は「回答者の半数が、技術とデータの基盤の準備ができていないと答えている」です。Gartnerの2025年調査(マーケティングテクノロジーリーダー413名・2025年6〜8月実施)の発表は、こう書いています。
回答者の半数が、AIエージェント導入に必要な技術スタックとデータスタックの準備が自社にできていないと報告し、半数はまた技術人材の不足を挙げています
── Gartner「Gartner Survey Finds 45% of Martech Leaders Say Existing Vendor-Offered AI Agents Fail to Meet Their Expectations of Promised Business Performance」(2025年10月29日発表/2026年8月28日取得)。原文は原文[1]に置きました。
技術スタック・データスタックとは、システムやツールと、データの置き場所や流れの組み合わせのことです。
要点は「AI readyかどうかは、データ単体ではなく、用途に対して決まる」です。Gartnerは2025年2月26日のプレスリリースで、こう定義しています。
まず、リーダーはAI readyなデータとは何かを定義しなければなりません。データは、その用途に対して代表的でなければならず、特定の用途向けにAIモデルを学習させる、または動かすのに必要な、あらゆるパターン、誤り、外れ値、想定外の出現を含んでいる必要があります
── Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」(2025年2月26日発表/2026年9月8日取得)。原文は原文[3]に置きました。
誤りや外れ値を「取り除く」ではなく、それらも含めて「用途に対して代表的」であることを求めている点が、この定義の特徴です(原文は representative of … errors, outliers)。返品対応なら、セール品や再配達の注文まで含めて初めて、その用途に対して代表的になります(この例は私たちのものです)。同じリリースは、AI readyなデータは「一度やれば終わり」ではない、とも書いています。既存の、そしてこれからのAIの用途に基づいて、データ管理の基盤を絶えず改善していく取り組みだ、という書き方です(原文[4])。
要点は「AI readyであることは、用途に合わせ、品質を確かめ、扱いを決めることで証明できる」です。Gartnerの解説記事はこう書いています。
データがAIの要件を満たす準備ができていることは、データを用途に合わせ、品質を確かめ、適切なガバナンスを示すことで証明できます
── Gartner「AI-Ready Data Essentials to Capture AI Value」(ページに発表日の表記なし/2026年9月8日取得)。原文は原文[5]に置きました。
ガバナンスとは、誰がどのデータを、どう扱ってよいかの決めごとのことです。私たちはこれを「扱いを決める」と言い換えています(原文の語はガバナンス、governanceです)。同じ記事は、用途ごとに必要なデータを記述するものとしています。それは最初から完全に定まっているとは限らず、データが使われ、AIの要件が満たされていく中で見えてくる、とも書いています(原文[6])。打ち手1の順番は、この一文が根拠です。
要点は「エージェントの部品は検索・ツール・記憶などで拡張されたLLMで、それぞれに読みに行く先がある」です。AIモデルを作っているAnthropicの記事は、こう定義しています。
エージェント的なシステムの基本的な構成部品は、検索・ツール・記憶といった拡張によって強化されたLLMです
── Anthropic「Building effective agents」(2024年12月19日公開/2026年9月5日にブラウザで確認)。原文は原文[7]に置きました。
検索(retrieval)とは、文書から関係する箇所を探して読み込むこと。ツール(tools)とは、外部のシステムを呼び出して値を取ったり操作したりすること。記憶(memory)とは、過去のやりとりを保持しておくことです(この言い換えは私たちのものです)。
用途を1つ決めて、その用途でエージェントが読みに行くデータ(文書・システムの値・過去のやりとり)が揃っているかを確認します。Gartnerの解説記事は、AIの用途ごとに必要なデータを記述するものとしています。手順は、管理画面で顧客を1人選び、必要な項目が今日の値で埋まっているか、番号の項目の意味が定義書にあるかを、10人分見ることです。分け方も手順も私たちの整理です。(出典:Gartner「AI-Ready Data Essentials to Capture AI Value」、2026年9月8日取得)
AI readyなデータ(AI-ready data)とは、Gartnerの定義では、その用途に対して代表的で、そのAIモデルを学習させる、または動かすのに必要なあらゆるパターン・誤り・外れ値・想定外の出現を含んだデータのことです。同じデータでも、用途が変わればAI readyかどうかは変わる、というのが私たちの読み方です。(出典:Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」、2025年2月26日発表)
Gartnerの解説記事は、AIの用途ごとに必要なデータを記述するものとしています。それは最初から完全に定まっているとは限らず、データが使われる中で見えてくる、という書き方です。用途を1つ決め、その用途で読みに行くデータから揃える、というのが私たちの進め方です。(出典:Gartner「AI-Ready Data Essentials to Capture AI Value」、2026年9月8日取得)
Gartnerの2025年調査(マーケティングテクノロジーリーダー413名・2025年6〜8月実施)では、両方が挙がっています。発表の表題は、既存のベンダー提供AIエージェントが約束された事業成果への期待に届かないと答えた人が45%だった、と伝えています。本文では、回答者の半数が技術スタックとデータスタックの準備不足を、半数が技術人材の不足を挙げたとしています。ツールを見比べる前に、自社側で確かめられるのはデータの側です。これは私たちの整理です。なお、この調査は日本の企業を対象にしたものではなく、回答者の国・地域の構成は発表に記載がありません。(出典:Gartner「Gartner Survey Finds 45% of Martech Leaders Say Existing Vendor-Offered AI Agents Fail to Meet Their Expectations of Promised Business Performance」、2025年10月29日発表)
この2つの資料には、取り除くことが条件だとは書かれていません。Gartnerのプレスリリースは、AI readyなデータは、用途に必要な誤りや外れ値まで含めて代表的でなければならない、と定義しています。またGartnerの解説記事は、誤りや外れ値を含んでいても、データはそのAIの用途に固有の品質基準を満たさなければならない、としています。用途が求める品質基準を先に決め、それに照らして確かめる、というのが私たちの読み方です。(出典:Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」、2025年2月26日発表/Gartner「AI-Ready Data Essentials to Capture AI Value」、2026年9月8日取得)
出典
・Gartner「Gartner Survey Finds 45% of Martech Leaders Say Existing Vendor-Offered AI Agents Fail to Meet Their Expectations of Promised Business Performance」(2025年10月29日発表)ページを見る ── マーケティングテクノロジーリーダー413名・2025年6〜8月実施。半数が技術スタックとデータスタックの準備不足/半数が技術人材の不足/45%は表題の数値。2026年8月28日にブラウザで取得[原文]訳の元になった文
[1]Gartner ── 半数が技術とデータの基盤の準備ができていない
Half of respondents report their organizations lack the technical and data stack readiness required for AI agent deployment, and half also cite a shortage of technical talent.
── Gartner「Gartner Survey Finds 45% of Martech Leaders Say Existing Vendor-Offered AI Agents Fail to Meet Their Expectations of Promised Business Performance」(2025年10月29日発表/2026年8月28日取得)
[2]Gartner ── メタデータが揃っていることを土台に、用途に合わせ・品質を確かめ・扱いを決める
Proving AI readiness of the data is a process and a practice based on the availability of metadata to align, qualify and govern the data.
── Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」(2025年2月26日発表/2026年9月8日取得)
[3]Gartner ── AI readyなデータの定義
First, leaders must define what constitutes AI-ready data. The data must be representative of the use case, of every pattern, errors, outliers and unexpected emergence that is needed to train or run the AI model for the specific use.
── Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」(2025年2月26日発表/2026年9月8日取得)
[4]Gartner ── 一度やれば終わりではない
Remember that AI-ready data is not “one and done.” Think of it as a practice where the data management infrastructure needs constant improvement based on existing and upcoming AI use cases.
── Gartner「Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk」(2025年2月26日発表/2026年9月8日取得)
[5]Gartner ── 用途に合わせ、品質を確かめ、ガバナンスを示す
You can prove your data is ready to meet AI requirements by aligning data to use cases, qualifying it and demonstrating appropriate governance.
── Gartner「AI-Ready Data Essentials to Capture AI Value」(ページに発表日の表記なし/2026年9月8日取得)
[6]Gartner ── 用途ごとに必要なデータを記述する
Every AI use case should describe what data it needs, which will also depend on the AI technique that is used. This may not be fully defined upfront but will emerge as the data is used and the AI requirements are met.
── Gartner「AI-Ready Data Essentials to Capture AI Value」(ページに発表日の表記なし/2026年9月8日取得)
[7]Anthropic ── 基本的な構成部品
The basic building block of agentic systems is an LLM enhanced with augmentations such as retrieval, tools, and memory.
── Anthropic「Building effective agents」(2024年12月19日公開/2026年8月28日取得、2026年9月5日にブラウザで確認)
[8]Anthropic ── エージェントの定義
Agents, on the other hand, are systems where LLMs dynamically direct their own processes and tool usage.
── Anthropic「Building effective agents」(2024年12月19日公開/2026年8月28日取得、2026年9月5日にブラウザで確認)
執筆者
永野 陽平
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