AIエージェントが買う時代に、自社に残る顧客データは何か
エージェンティックコマースで店に渡る顧客データは、名前・メール・電話番号・住所など注文に要る情報までで、何と比べてなぜ選んだかは渡りません。OpenAIの仕様書とShopifyの記述をもとに、自社で持てる3つの打ち手を順に整理しました。
読むチャットボットを入れてしばらく経つと、こう言われることがあります。「問い合わせは減ったが、思ったほどではない」。私たちが入る案件では、この段階で「もっと賢いAIに替える」という案が出ることがあります。
私たちが先に見るのは、AIの賢さではなく、業務の分け方です。すでに動いているものを止める話ではありません。どこを分けるかを1つ決める話です。
根拠にしたのは、AIモデルを作っているAnthropicの記事です。AIエージェントを作る数十のチームと仕事をしてきたとしたうえで、「一貫して、最もうまくいっている実装は複雑なフレームワークや専用のライブラリ(開発の土台になる既製の部品群)を使っていませんでした。かわりに、単純で組み合わせ可能なパターンで作られていました」と書いています。高度なものを1つ入れるのではなく、単純なものを組み合わせる。これは「もっと賢いものに替える」の逆の向きです(この読み方は私たちのものです)。
身近な例は、問い合わせ窓口です。「返品したい」「配送はいつ届くか」「使い方が分からない」── 種類ごとに担当を分けて受けるのと、1人が全部を受けて毎回考えるのとでは、同じ人数でも回り方が違います。チャットボットも同じで、先に業務を分けてあるかどうかで効き方が変わる、というのが私たちの見立てです(種類ごとに担当を分けるか、1人が全部を受けるか、という言い方は私たちのものです)。
Anthropicの記事には、組み合わせ方のパターンが5つ挙がっています。日本語にするとこうなります(呼び名は私たちが付けたもので、原文にはありません。各行の例も原則として私たちのものですが、振り分ける型だけは原文にも近い例があるので、その旨を添えました。「5つ」と数えたのも私たちです)。
5つのうち、実務でいちばん迷うのが「振り分ける型」と「その場で割る型」です。どちらも「複数の処理に分ける」ように見えます。振り分ける型は、種類が先に決められ、かつ正確に振り分けられるとき。その場で割る型は、何をすればよいか(必要な作業)が先に決められないときです。問い合わせ窓口で言えば、「返品・配送・使い方」に最初から分けられるなら振り分ける型。用件は分かっても、何をどの順で確認するかが毎回変わるなら、その場で割る型の側です(この対比は私たちの整理で、原文がこの2つを並べて論じているわけではありません)。
なお原文は振り分ける型の例に、難しい質問だけを高性能なモデルへ回す使い方も挙げています。賢いモデルを使わないという話ではなく、どこに使うかを先に分ける、という順番の話です(この整理は私たちのものです)。
ここからは私たちの進め方です。すでに動かしている場合も、決め直せます。3つあります。
賢さより、分け方に判断が寄ります。どこを固定してどこをAIに任せるかはAIエージェントとワークフローは、何が違うのかで、費用がどこで動くかはAIエージェントの費用は、何で決まるのかで扱いました。
上の整理の根拠です。要点を先に書いてから引用します。
要点は「一貫して、うまくいっていたのは、複雑なフレームワークや専用ライブラリを使ったところではなく、単純なものを組み合わせたところだった」です。
一貫して、最もうまくいっている実装は複雑なフレームワークや専用のライブラリを使っていませんでした。かわりに、単純で組み合わせ可能なパターンで作られていました
── Anthropic「Building effective agents」(2024年12月19日公開/2026年8月28日取得)。原文は原文[1]に置きました。
土台になる部品も定義されています。「エージェント的なシステムの基本的な構成部品は、検索・ツール・記憶といった拡張によって強化されたLLMです」。LLMとは大規模言語モデルのことで、文章を扱うAIの土台です。つまり「何を検索させ、どのツールを持たせ、何を覚えさせるか」が部品の中身になります(この言い換えは私たちのものです)。
原文の定義と「いつ使うか」を、表に並べます。実務で見るのは「いつ使うか」のほうです(私たちの進め方です)。
| パターン | 定義(原文) | 使いどころ(原文) |
|---|---|---|
| prompt chaining つなげる | 「Prompt chaining decomposes a task into a sequence of steps, where each LLM call processes the output of the previous one.」(タスクを一連のステップに分解し、各LLM呼び出しが前の出力を処理する) | 「…the task can be easily and cleanly decomposed into fixed subtasks」(固定された下位タスクに、簡単かつきれいに分解できる) |
| routing 振り分ける | 「Routing classifies an input and directs it to a specialized followup task.」(入力を分類し、それに特化した後続のタスクへ振り分ける) | 「別々に扱ったほうがよい明確なカテゴリがあり、かつ分類を正確に扱える複雑なタスクでうまく働く」 |
| parallelization 同時に走らせる | 「LLMs can sometimes work simultaneously on a task and have their outputs aggregated programmatically.」(LLMが同時に作業することがあり、その出力をプログラム的に集約する) | 「…the divided subtasks can be parallelized for speed, or when multiple perspectives or attempts are needed for higher confidence results」(分割した下位タスクを速さのために並列化できるとき、あるいは複数の視点や試行が必要なとき) |
| orchestrator-workers その場で割る | 「a central LLM dynamically breaks down tasks, delegates them to worker LLMs, and synthesizes their results」(中心のLLMが動的にタスクを分解し、作業側のLLMに委ね、結果を統合する) | 「…complex tasks where you can’t predict the subtasks needed」(必要な下位タスクを予測できない複雑なタスク) |
| evaluator-optimizer 見て直す | 「one LLM call generates a response while another provides evaluation and feedback in a loop」(一方が応答を生成し、もう一方が評価とフィードバックをループで返す) | 「…we have clear evaluation criteria, and when iterative refinement provides measurable value」(明確な評価基準があり、反復的な改善が測れる価値をもたらすとき) |
パターン名の下の日本語(つなげる・振り分ける等)は私たちが付けた呼び方です。「使いどころ」の列は原文の「When to use this workflow」から該当部分を抜き出しました。「5つ」と数えたのは私たちで、原文が数え上げているわけではありません。
精度だけの問題とは限りません。Anthropicは「一貫して、最もうまくいっている実装は複雑なフレームワークや専用のライブラリを使っていませんでした。かわりに、単純で組み合わせ可能なパターンで作られていました」と書いています。複雑なフレームワークを使った側がうまくいっていた、とは書かれていません。同じ記事は組み合わせるパターンを5つ挙げ、それぞれに「使いどころ」を示しています。業務の分け方が先だ、というのが私たちの読み方です。これは業界共通の分類ではなく、Anthropicがこの記事の中で挙げているパターンです。(出典:Anthropic「Building effective agents」)
使いどころが違います。routing は「別々に扱ったほうがよい明確なカテゴリがあり、かつ分類を正確に扱える複雑なタスクでうまく働く」とされ、orchestrator-workers は「complex tasks where you can’t predict the subtasks needed」(必要な下位タスクを予測できない複雑なタスク)に向くとされています。カテゴリを先に決められるかどうかで分かれる、という対比は私たちの整理で、原文がこの2つを並べて論じているわけではありません。(出典:Anthropic「Building effective agents」)
そうとは書かれていません。Anthropicは最もうまくいっている実装が、複雑なフレームワークや専用のライブラリを使っておらず、単純で組み合わせ可能なパターンで作られていたとしています。替える前に確かめたいのは、どのパターンで組んでいるかです。いまの問い合わせが明確なカテゴリに分かれるか(routing の使いどころ)、固定の手順で終わるか(prompt chaining の使いどころ)を見ると、足りないのが精度なのか分け方なのかが分かれます。これは私たちの進め方です。なおモデルを替えることの費用については、別の記事で扱いました。(出典:Anthropic「Building effective agents」)
評価基準があるかで変わります。Anthropicは evaluator-optimizer の使いどころを「明確な評価基準があり、反復的な改善が測れる価値をもたらすとき」としています。基準が無いまま入れても、何に向かって直しているかが決まりません。これは私たちの読み方です。(出典:Anthropic「Building effective agents」)
Anthropicは土台になる部品について「エージェント的なシステムの基本的な構成部品は、検索・ツール・記憶といった拡張によって強化されたLLMです」と書いています。「何を検索させ、どのツールを持たせ、何を覚えさせるか」が部品の中身になる、という言い換えは私たちのものです。なお持たせるツールの数は費用にも関わります(このページに費用の記載はなく、私たちの読みです。詳しくは別の記事で扱いました)。(出典:Anthropic「Building effective agents」)
出典
・Anthropic「Building effective agents」ページを見る ── 最もうまくいっている実装は複雑なフレームワークを使っていなかった/基本的な構成部品は検索・ツール・記憶で強化されたLLM/5つのパターン(prompt chaining・routing・parallelization・orchestrator-workers・evaluator-optimizer)の定義と使いどころ。2026年8月28日に取得[原文]訳の元になった文
[1]Anthropic ── 最もうまくいっている実装
Consistently, the most successful implementations weren’t using complex frameworks or specialized libraries. Instead, they were building with simple, composable patterns.
── Anthropic「Building effective agents」(2024年12月19日公開/2026年8月28日取得)
執筆者
永野 陽平
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