出し分けができないのは、データが足りないからではない
セグメント配信で出し分けができない原因は、多くの場合、データの量ではありません。原因は、集まっているデータが「出し分けに使える形」になっていないことです。少なくとも「足りないから集める」が答えでないことには、裏づけが1つあります。MAツール大手のBraze自身が、公式ドキュメントで「変わっていないデータを送るな」と書いていることです。データは足りないのではなく、使えない形で溜まっている ── これが私たちの見立てです。
出典:Braze公式ドキュメント「Data points」(2026年8月19日取得)。本稿の「使えない形の3つの型」は当社の整理で、その旨を本文に明記しています。
セグメント配信を組もうとして、途中で止まった経験はないでしょうか。切りたい軸を選ぼうとすると、その属性が無い。一方で、連携済みのデータの一覧を見ると、項目は何十列もある。「データはあるのに、使えない」という状態です。
このとき、次の一手は「もっとデータを集める」になりがちです。基幹システムから追加で属性を引く。アンケートを打つ。切りたい軸が無いのだから、集めに行くのは自然な判断です。ただ、ここは私たちの観測ですが、それで出し分けが動き始めるより先に、使われない列が増えて終わるケースが少なくありません。
なぜBraze自身が、送るデータを絞れと書いているのか
MAツールの側は、データをどう見ているのか。Brazeの公式ドキュメントに、こういう注意書きがあります。
Don’t waste data points. Only update changing data!
To minimize data point usage, we recommend setting up a program to prevent sending the same unchanging data and only passing new and relevant data to Braze.
── Braze公式ドキュメント「Data points」(2026年8月19日取得)
「変わっていない同じデータを送らない仕組みを作り、新しく関連のあるデータだけを渡すことを推奨する」。ツールを売る側が、データを入れる量を絞れと明文で書いています。
背景には課金の仕組みがあります。Brazeでは、プロファイルに設定した属性やイベントが1件ずつ課金単位として数えられます。原文では “any attribute set on an end user profile … shall each count as a single data point”(プロファイルに設定されたどの属性も、それぞれ1データポイントと数える)とされています。メール開封やプッシュのクリックなど、Brazeが標準で収集するものは対象外です。課金対象・対象外の線引きは費用の記事で扱いました。
連携を組む時点では、どの軸で出し分けるかが決まっていないことが珍しくありません。だから「とりあえず全部入れておく」は、その時点では妥当な判断です。ただ、この課金の仕組みの上では、それは使わないデータにお金を払い続ける設計になります。
少なくともBrazeの課金設計では、「データは多いほどよい」は成立していません。MA全般に同じ構造があるかは本稿では確認していませんが、量は費用に直結し、出し分けに効くのは形のほうだ ── というのが私たちの見立てです。
なぜ「足りない」と感じるのか
使えない原因が形にあるのに、感じるのは「足りない」なのはなぜか。ここは私たちの見立てですが、見え方の差だと考えています。
切りたい軸が選択肢に無いことは、配信ツールの画面ですぐ見えます。「無い」という事実だけが目に入るので、「足りない」と感じます。いっぽう、変換の工程が抜けていることは、画面のどこにも表示されません。購買履歴が溜まっていることと、そこから「最終購入からの日数」が作れることは、画面の上では繋がって見えないからです。
見えるほうの解釈(足りない)が採用されて、見えないほうの原因(変換が無い)が残ります。だから集めても直りません。
「使えない形」には、3つの型がある
ここからは、当社がご相談を受ける中で見てきた整理です。出典のある分類ではありません。切りたい軸が無いとき、データは次の3つのどれかの形で溜まっています。
| 型 | 状態 | 足しても直らない理由 |
|---|---|---|
| 1 鮮度がない | 連携した日のまま更新されていない | 新しい列を足しても、その列も止まる。直すのは更新の仕組み |
| 2 粒度が合わない | 業務の分類のまま入っている(会計・在庫の都合の粒度) | 配信で使う分類(初回向けか、定期向けか)への変換が無いと、何列あっても選べない |
| 3 本人と紐づかない | 購買・会員・配信チャネルでIDが分かれている | 各システムにデータは揃っている。足りないのは接続で、量ではない |
型3のID連携については、MA用データ開発のページで扱っています。
「集める」と「使える」のあいだに、変換がある
3つの型に共通しているのは、「集める」と「使える」のあいだに変換の工程があるということです。ここが飛ばされると、量だけが増えます。
変換とは、たとえばこういう作業です。
- 購買履歴 → 「最終購入からの日数」 ── 履歴そのものでは切れない。日数にして初めて「90日以上空いた人」が選べる
- 商品コード → 「初回購入向けかどうか」 ── 業務の分類を、配信の場面の分類に置き換える
- 別々のID → 1人の顧客 ── POSの会員番号とLINEのIDを紐づけて、行動と配信先を一致させる
この変換は、配信の設定画面の中だけでは完結しません。データ側の仕事です。そして配信の担当とデータの担当が分かれている組織では、この工程がどちらの仕事でもなくなりがちです。出し分けが止まる場所は、この隙間であることが多くあります。
これは、どちらかの担当の落ち度ではありません。「集める」はシステム連携の仕事として発注され、「使える形にする」は誰の発注にも入っていなかった。工程が設計から抜けていただけです。
変換を1本だけ、具体的に見る
「最終購入からの日数」を例にします。休眠の掘り起こしにも、買った直後のフォローにも使う、いちばん基本の軸です。
元になるデータは購買履歴です。購買履歴がすでに溜まっている会社が多くあります。それでも「90日以上買っていない人に配信する」が今日できないとしたら、あいだの工程が抜けています。
- 履歴から人ごとの最終購入日を出す ── 履歴は「1回の購買が1行」で溜まっています。人単位に集計し直す工程が要ります
- 最終購入日を「今日からの日数」に変える ── 日付のままでは扱いにくく、日数にして初めて「90日以上空いた人」が安定して選べます。毎日変わる数字なので、更新の仕組みごと作ります
- その数字を、配信ツール側の1人に紐づけて渡す ── ここで型3(ID)が繋がっていないと、計算はできたのに配信先に載らない、で止まります
工程は3つだけです。新しいデータは1つも集めていません。形を変えただけで、「90日以上空いた人」「買って7日以内の人」という軸が使えるようになります。元手は、これまで溜めてきた購買履歴だけです。
そして3つめの工程で、変わったときだけ送る形にしておくと、前掲のBrazeの推奨とも噛み合います。日数は毎日変わりますが、たとえば「30日・60日・90日の区分」に丸めて持てば、区分が変わった人の分だけ更新すれば済みます。
では、何から手をつけるか
ここからは私たちの進め方です。順序が肝心で、逆にやると使わない列がまた増えます。
- 先に、出し分けの軸を3つ以内で決める。「最終購入からの日数」「初回か再購入か」「よく買うカテゴリ」など。全部やろうとしないことが要点です
- 次に、その軸に必要な変換だけを作る。軸が3つなら、変換も3本で済みます。集まっている全列を整備する必要はありません
- 最後に、変わったときだけ更新する連携にする。Brazeの推奨どおりです。日次で全件を書き戻す設計は、費用だけが増えます
1つめが要点です。軸を決めずにデータ整備から入ると、「使うかもしれない」列が全部対象になり、終わらなくなります。軸が先、データが後です。
よくある質問
以下の回答のうち、Brazeの仕様に関する記述はBraze公式ドキュメント「Data points」(2026年8月19日取得)に基づきます。「3つの型」は当社の整理です。
セグメント配信をしたいのですが、データが足りない気がします。何から集めればいいですか?
集める前に、切りたい軸を3つ以内で決めることをお勧めします。軸が決まると、必要なデータは、既に社内のどこかにあることが少なくありません。足りないのは量ではなく、「最終購入からの日数」のような使える形への変換であることが多くあります。
データを全部MAツールに入れておけば、あとで使えるのではないですか?
あとで使える状態にはなりますが、費用が先に発生します。Brazeではプロファイルに設定した属性が課金単位として数えられ、公式ドキュメント自身が「変わっていないデータを送らない仕組み」を推奨しています。入れる前に、何の軸で出し分けるかを決めるほうが安く済みます。(出典:Braze公式ドキュメント「Data points」/2026年8月19日取得)
購買データと配信ツールのID連携は、どれくらい大変ですか?
本稿で挙げた3つの型(当社の整理)のなかでは、いちばん工程が多い仕事です。購買・会員・配信チャネルそれぞれのIDの持ち方を調べ、突合のルールを決め、例外(同姓同名・複数アカウント)の扱いを設計します。ただし、これが繋がると出し分けの幅がいちばん大きく広がります。「買った直後」「買いそうで買っていない」という軸は、ここが繋がって初めて使えます。
データを配信で使える形に変換するのは、誰の仕事ですか?
配信の担当とデータの担当のあいだに落ちやすい仕事です。配信の設定画面の中ではできず、データ側の作業になりますが、何に変換するかは配信の設計から決まります。当社がこの領域を「MA用データ開発」として独立したサービスにしているのは、どちらの発注にも入らないまま止まるケースを見てきたからです。
執筆者
永野 陽平
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