カスタマージャーニーとメッシーミドルは、何が違うのか
カスタマージャーニーとメッシーミドルの違いは、「探索」と「評価」を分けるかどうかです。マッキンゼーの「コンシューマー・ディシジョン・ジャーニー」(2009年)は、この2つを1つの「積極的評価」という段階にまとめています。 […]
読むメッシーミドルとは、きっかけと購入のあいだにある、探索と評価をくり返す空間のことです。Googleが行動科学の専門機関 The Behavioural Architects の協力を得て行った調査で提示された概念で、報告書はこの空間を「messy middle」と呼んでいます。比較検討は一直線に進まず、広げる動きと絞る動きのあいだを何度も往復します。そしてこの2つは認知的に別物で、必要な打ち手が変わります。
出典:Google / The Behavioural Architects「Decoding Decisions ─ Making sense of the messy middle」(2020)。実験の条件と限界は本文に明記しています。
We call it the “messy middle”, a space of abundant information and unlimited choice that shoppers have learned to manage using a range of cognitive shortcuts.
── Google(調査協力:The Behavioural Architects)「Decoding Decisions」(2020)p.7
ファネルは、上から下へ細くなる図で描かれます。認知され、興味を持ち、比較し、買う。実務では、この順番を前提に予算を配ることが多くあります。しかしGoogleの調査は「比較検討の中は順番になっていない」と報告しています。
報告書は、メッシーミドルの中で起きていることを2つのモードに分けています。
Exploration is an expansive activity, while evaluation is inherently reductive. When exploring, we add brands, products, and category information to mental portfolios or “consideration sets”. When evaluating, we narrow down those options.
── Google(調査協力:The Behavioural Architects)「Decoding Decisions」(2020)p.17
探索は増やす動きで、評価は減らす動きです。探索しているとき、人は候補を頭の中のリストに足していきます。評価しているときは、そのリストを削っています。やっていることが逆なので、同じものを見せても効き方が変わります。
この整理は、3年後の続編でも維持されています。2023年の第2弾は、第1章の冒頭(p.12)でこう整理し直しています。
The exploration and evaluation loops of the messy middle are fundamentally about how people discover and digest information. But they constitute very different mindsets.
── Google / The Behavioural Architects「Marketing in the messy middle ─ Part 2 of the Decoding Decisions series」(2023)p.12
「very different mindsets」── 別の心持ちだ、という言い方に変わっていますが、結論は同じです。2020年の整理は、2023年の続編でも取り下げられていません。
図1 メッシーミドルの構造。ファネルではなくループで、外側には常に露出がある。出典の記述をもとに作成。
ここが実務にいちばん効く部分です。報告書は、マッキンゼーの「コンシューマー・ディシジョン・ジャーニー」(2009年)との違いとして、探索と評価を分けるべきだと書いています。
報告書が挙げているのは、そのモデルが探索と評価を1つの段階にまとめている点です。
報告書が並べた8つのモデルの変遷と、マッキンゼーとの違いは、カスタマージャーニーとメッシーミドルは、何が違うのかで扱っています。
そのうえで、報告書はこう指摘します。
In McKinsey’s consumer decision-making model (one of our favourite recent models), these modes are combined into a single “active evaluation” phase. However, our research suggests that they are cognitively distinct with different reward systems and, as such, different tactics are required to connect with consumers depending on whether they are exploring or evaluating.
── 同報告書 p.17
探索と評価は報酬系が違うので、必要な戦術も違う。この記事が扱うのはここから先、つまり2つを分けたあとに何をするかです。この2つを混ぜたまま「ミドルファネル施策」と一括で予算を組むと、片方にしか効かない打ち手を両方に当てることになります。
| 探索(Exploration) | 評価(Evaluation) | |
|---|---|---|
| 動き | 広げる(expansive) | 絞る(reductive) |
| していること | 候補リストに足す | 候補リストから削る |
| 足りないときの症状 | そもそも候補に入っていない | 候補には入るが、最後に選ばれない |
| 要るもの | その場面で思い出される状態 | 比べたときに安心できる材料 |
「資料請求はされるのに受注にならない」と「そもそも声がかからない」は、別の問題です。前者は評価の話で、後者は探索の話です。同じ「ミドルの改善」として扱うと、打ち手が噛み合いません。
報告書は、探索と評価という2つの段階に関わるものとして、認知バイアスを6つに絞り込んでいます。評価だけの話ではありません。
the team whittled down the list to six biases that are closely associated with the explore and evaluate phases of our model.
── 同報告書 p.48
どのバイアスがどちら側で効くかは、バイアスごとに違います。報告書は希少性バイアスについて、シミュレーションでは6つのなかで最も効果が小さいことが多く、最終評価の決め手にはなり得るが、探索中の買い物客には制約と感じられて逆効果になりうると書いています(p.64)。6つを全部並べて全部やる、という使い方をするものではありません。ただし報告書は、6つすべてについて探索側・評価側を割り振ってはいません。ここは打ち手ごとに判断する部分です。
リストの1つめ、カテゴリーヒューリスティクスについて、報告書はプリンストン大のShahとOppenheimerの研究を引いて、ヒューリスティクスが認知的な労力を下げる形で効くと整理しています(p.49)。
報告書のシミュレーションでは、カテゴリーヒューリスティクスは31カテゴリのうち14カテゴリで最大または2番目に大きい効果でした(p.61)。ここは私たちの解釈ですが、比較しやすい指標を1つ差し出すこと自体が打ち手になります。指標が無いカテゴリでは、買う側は比べる軸を自分で作らなければならず、判断が止まりやすくなる、と考えています。
報告書は、6つのバイアスを購買シミュレーションで検証しています。規模は31カテゴリ・各1,000人・計31,000人(英国のオンライン買い物客、18〜65歳)で、シミュレートした購買シナリオは310,000件です(p.54)。結果はこうです。
In nearly every case, social proof (expressed as three-star versus five-star reviews) proved to be the most powerful behavioural bias, having either the largest or second-largest effect in 28 of the 31 categories we tested.
── 同報告書 p.60
ほぼすべてのケースで、ソーシャルプルーフ(星3のレビューと星5のレビューの比較として表現)がもっとも強く働き、検証した31カテゴリのうち28カテゴリで最大または2番目に大きい効果でした。
図2 ソーシャルプルーフは、検証した31カテゴリのうち28カテゴリで最大または2番目に大きい効果だった。比べたのは「平均レビュースコアが星3の場合」と「星5の場合」で、レビューの総数は各ブランドで同じに固定されています。測っているのはレビューの星数であり、SNS上の口コミを測った実験ではありません。出典の記述をもとに作成。
この実験には、条件が2つあります。1つは対象です。参加者は英国のオンライン買い物客(18〜65歳)で、日本の調査ではありません。もう1つは価格です。報告書は限界として、参加者に「各商品は現在の市場相場どおりの価格」と伝え、価格を変数から除いたと書いています(p.52)。実際の購買で価格が効く分は、この31,000人では測られていません。そして報告書は、シミュレーションの結果はあくまで示唆的なもので、各社自身のin-marketテストの代わりにはならないと自ら書いています(p.54)。
そして、この数字を「SNSの口コミが効く証拠」として使うことはできません。報告書が操作したのは平均レビュースコア(星3と星5)で、SNSの第三者評価ではありません。レビューと口コミを同じものとして扱うと、出典の外に出ます。
報告書自身も、この打ち手の難しさに触れています。レビューとコメントはソーシャルプルーフの本命だが、何もないところから作るのは難しいと。買った人が体験を書いてくれるかどうかに依存するからです。そのうえで、実際にそれがある場合には、コピーの中で「多くの人に選ばれている」と伝える形でも強く働く、と書いています(p.60)。
ここからは報告書の記述ではなく、私たちのやり方です。3つあります。
3つめが、私たちが「獲得したあと」に軸足を置いている理由です。体験がレビューになり、レビューが次の評価を動かす。この一周が回っていない状態で探索側の予算だけ増やしても、同じところに戻ってきます。
探索側と評価側のどちらに寄せるかが決まったら、次はどの接点に置くかです。CRM戦略設計のページに、目的と接点の掛け算で整理した考え方を載せています。
以下の回答は、Google / The Behavioural Architects「Decoding Decisions」(2020/2023)に基づきます。ページ番号は各回答内に記載しています。
きっかけと購入のあいだにある、探索と評価をくり返す空間のことです。Googleが行動科学の専門機関 The Behavioural Architects の協力を得て行った調査で提示された概念です。なお報告書の脚注によれば、この呼び名自体は、初期ドラフトを読んだ広告ストラテジストの Vicki Holgate が「a kind of messy-middle」と言い返したのが定着したものだと説明されています(p.7)。比較検討が一直線に進まないことを指しています。
そうは書かれていません。報告書はトリガーと購入という2つの端を認めたうえで、そのあいだが順番になっていないと言っています。予算配分の単位としてのファネルは使えますが、「比較検討」を1つの塊として予算を組むと、必要な打ち手が2種類あることが見えなくなります。
症状で分けられます。そもそも声がかからないなら探索側、候補には入るが最後に選ばれないなら評価側です。前者は思い出される状態が足りず、後者は比べたときの安心材料が足りていません。
順番としては、そうなりにくいです。報告書自身が、レビューは何もないところから作るのが難しいと書いています。買った人が書いてくれる状態を先に作る必要があり、それは獲得したあとの設計の話です。
執筆者
永野 陽平
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