LTVは、どの式で計算しているかで施策が変わる
LTVの計算式は、期間・売上か利益か・実績か予測かの3点がツールごとに違い、この記事で読んだ4つの説明では4通りでした。平均購入額5,000円・年3回・2年の作例で、式ごとに動かす変数と、施策を1つの変数に結びつける決め方を整理しました。
読む「ダッシュボードのリピート率と、レポートのリテンション率が合わない」。私たちが入る案件でも、最初は集計のバグを疑います。開けてみると、原因が定義の違いだったことがあります。
リテンション率とリピート率の違いは、分母にしている「名簿」です。リピート率の名簿は「その期間に注文した人」で、新しく注文する人が出るたびに増えます。リテンション率の名簿は「1月に初めて買った人」のように固定で、あとから人は増えません。だから同じ月でも、別の数字が出ます。
指標の名前が同じでも、ツールが違えば計算が違うことがあります。作り直す話ではなく、いまの数字が何を分母にしているかを1つ確かめる話です。
6人の顧客が、1月から3月のあいだに買ったり買わなかったりしています。縦に数えるとリピート率、横に数えるとリテンション率です。
同じことを、人数を増やしてもう一度やります。今度は新規獲得を強めた翌月まで追います。
| リピート率 | リテンション率(1月組を追う場合) | |
|---|---|---|
| 分母(名簿) | 3月に注文した人 ── 200人 | 1月に初めて買った人 ── 100人 |
| 分子 | そのうち2回目以上だった人 ── 60人 | その100人のうち3月も買った人 ── 20人 |
| 3月の数字 | 30% | 20% |
| 4月に新規獲得を強め、注文した人が300人になった | 分母が300人。再訪の数が60人のままなら30%→20%に下がる | 名簿は1月組の100人のまま。分母は動かない |
同じ3月・同じ会社で、30%と20%という別の数字が出ます。どちらも正しく計算されています。見ている名簿が違うからです。
4月に新規獲得を強めて注文者が300人になったとします。リピート率は、再訪の数が60人のままなら30%から20%に下がります。分母だけが増えるからです。リテンション率は、名簿が1月組の100人のままなので動きません。新規を増やした月にリピート率が下がっても、その下がり方は悪化とは限りません(この向きは計算式から私たちが導いたものです)。
ここからは私たちの進め方です。3つあります。
何を資産と呼ぶかを先に決める順序は顧客資産化の設計順序で扱いました。
上の整理の根拠です。要点を先に書いてから引用します。
要点は「再訪顧客 ÷ 顧客」の1行です。
Returning customer rate ── 注文した全顧客に対する再訪顧客の割合。計算式:再訪顧客 ÷ 顧客
── Shopifyヘルプセンター「Analytics data points (fields) reference」。原文[1](2026年8月28日取得)
分母の「顧客」は、同じページで「注文した顧客の数」と定義されています(原文[2])。どの期間で区切るかは、この指標については書かれていません。なお同じページで「Customers」は2か所に出てきて、置かれた一覧が違います。上位30指標の一覧では「注文した顧客の数」、コホートの一覧では「コホートの顧客のうち注文した顧客の数」です(原文[13])。どちらの一覧の指標でレポートを組んだかで、同じ「顧客数」が別の名簿を指します。
要点は「コホートの顧客のうち、その期間に注文した割合」です。
Customer retention rate ── 与えられたコホートの顧客のうち、与えられた期間に注文した顧客の割合
── Shopifyヘルプセンター「Analytics data points (fields) reference」。原文[3](2026年8月28日取得)
コホートとは、同じ時期に初めて買った人だけを集めた名簿のことです(この言い換えはこの記事の説明で、原文は cohort とだけ書いています)。計算式の記載がないので、分母がコホートの母集団なのか、そのうち注文した人の数なのかは確定できません。この記事は前者として読んでいます。コホートの区切り方(月次か週次か)はレポートを組む側が選ぶので、1つの式に固定しづらい面もあります(これは私たちの推測です)。
Shopifyの中だけの話ではありません。Klaviyoヘルプには retention rate という指標がありますが、本文は分子を「これらは過去1年からのリピート顧客です」と説明しています(原文[7])。名前でどちらの指標かは判断できません。BigCommerceの Repeat Purchase Rate は「N日目までに2件目の注文をした顧客の割合」とされ、起点とNの具体値はこのページでは確認できませんでした(原文[6])。この記事で読んだヘルプの中で、計算式が文として書いてあったのはShopifyの Returning customer rate でした。ほかは定義文から分母を読み取る形です。だから式を探すより先に、分母を1つ書き出す順番にしています。
Shopifyの中でも、レポートによって「returning customer」の範囲が違います。あるレポートでは「注文履歴にすでに1件以上の注文が含まれている顧客」、別のレポートでは「注文履歴に2件以上の注文が含まれている」顧客です(原文[4])。片方は期間内の注文者を新規と再訪に振り分けるレポート、もう片方は通算2件以上の顧客を並べるレポートで、用途が違うためです(この整理は私たちのものです)。
要点は「顧客レポートは、選んだ月の注文だけでなく、レポート内の新規顧客の注文履歴全体を見て判定する」です。
顧客レポートのデータは、選択した期間に置かれた注文だけでなく、レポート内の新規顧客の注文履歴全体にもとづきます。たとえば11月だけのレポートを開いた場合、その月の新規顧客は、2回目の購入が12月であっても、リピート顧客として表示されます。
── Shopifyヘルプセンター「Customers reports」。原文[8](2026年8月28日取得)
つまり12月に2件目が入れば、11月のレポートの中で「リピート顧客」が増えます。締めたあとに数字が変わっていたとき、集計が壊れたのではなく、この仕様であることがあります。
分母にしている名簿が違います。リピート率の分母は「その期間に注文した人」で、新しく注文する人が出るたびに増えます。リテンション率の分母は「1月に初めて買った人」のように作った固定の名簿で、あとから人は増えません。
Shopifyヘルプセンターは Returning customer rate を「注文した全顧客に対する再訪顧客の割合」と定義し、計算式を「再訪顧客 ÷ 顧客」と明記しています。その分母は同ページで「注文した顧客の数」と定義されています。(原文[1][2])
ツールによって違います。Shopifyが計算式を明記しているのは Returning customer rate だけで、「再訪顧客 ÷ 顧客」です。
BigCommerce は分母と起点の記載がありません。Klaviyo は計算式を画像でのみ提供しています。自社の数字を確かめるときは、式ではなく分母を1つ書き出すのが先です。
バグとは限りません。指標名が同じでも、ツールによって分母が違います。
Shopifyヘルプセンターには母数の違う2指標が並んでおり、「returning customer」の範囲もレポートによって変わります。片方は「その期間に注文した人を新規と再訪に振り分ける」レポート、もう片方は「現時点で通算2件以上の注文を持つ顧客を並べる」レポートで、数える対象の集合が違います(前者はフロー、後者はストック。この整理は私たちのものです)。BigCommerceは「N日目までに2件目の注文をしたか」で見ています。まず分母を確かめる、というのが私たちの進め方です。
あります。顧客レポートは選択期間の注文だけでなく、注文履歴全体にもとづくとされています。
Shopifyヘルプセンターは「11月だけのレポートを開いた場合、その月の新規顧客は、2回目の購入が12月であっても、リピート顧客として表示されます」と書いています(原文[8])。
締めたあとに数字が動くのは、集計が壊れたからではないことがあります。
Shopifyは Returning customer rate について「ほとんどのストアは20〜40%を示します」と書いています(原文[9])。
ただしこの帯には、調査手法・対象期間・対象地域・業種・件数の記載がありません。またこの数字は「注文した全顧客に対する再訪顧客の割合」という定義に対するものです。
自社の数字の分母が同じでなければ、この帯とは比べられません。
分母が「注文した顧客の数」になっている指標では、下がる向きに働きます。
Shopifyの Returning customer rate は計算式が「再訪顧客 ÷ 顧客」なので、再訪顧客の数が変わらなければ、分母が増えるぶん率は下がります。新規と再訪が同じ率で伸びれば、率は動きません。
コホート型の指標は、名簿を作ったあと人が増えないため、既存の名簿の率は変わりません。この向きは計算式から私たちが導いたものです。
この倍率について、記事に研究名の記載がありません。
記事は「どの研究を信じるか、どの業界にいるかによって」という断り書きを付けています(原文[10])。出所は辿り着けませんでした。
元の資料で確認できたのは Bain & Company の「金融サービスでは、顧客リテンションが5%上がると、利益が25%を超えて増える」です(原文[11])。業種が限定され、内容はコストではなく利益です。
出典
・Shopifyヘルプセンター「Analytics data points (fields) reference」ページを見る ── Returning customer rate の定義と計算式(returning customers / customers)/分母 Customers の定義(Number of customers who placed an order)/Customer retention rate の定義(計算式の記載なし)/「Higher rates reduce acquisition costs.」。2026年8月28日にブラウザ経由で取得[原文]訳の元になった文
本文では日本語だけを載せています。訳の元になった原文を、そのままここに置きました。本文の「原文[n]」から飛べます。日本語はすべて私たちの訳です。
[1]Returning customer rate の定義と計算式
Returning customer rate — Percentage of returning customers relative to all customers who placed orders / Formula: returning customers / customers
── Shopifyヘルプセンター「Analytics data points (fields) reference」(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)
[2]分母(Customers)の定義
Customers — Number of customers who placed an order
── 同ページ(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)
[3]Customer retention rate の定義
Customer retention rate — Percentage of customers in the given cohort who placed an order in the given period
── 同ページ(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)。この指標には、同ページに計算式の記載がありません。
[4]returning customer の2通りの記述
A returning customer is a customer who placed an order, and whose order history already includes at least one order.
The Returning customers report displays data about all your customers whose order history includes two or more orders.
── Shopifyヘルプセンター「Customers reports」(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)
[5]Klaviyo ── 期間は自社で作ってよい
Note that you can craft your own custom timeframe if the one above does not work for your business model.
── Klaviyoヘルプ「How to calculate retention rate」(2026年8月28日取得)
[6]BigCommerce ── Repeat Purchase Rate の定義
Repeat Purchase Rate — % of customers who made a second order by the Nth day
── BigCommerceヘルプ「Ecommerce Insights」(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)。起点とNの具体値、分母はこのページに記載がありません。
[7]Klaviyo ── 分子の説明
These are repeat customers from the past year.
── Klaviyoヘルプ「How to calculate retention rate」(2026年8月28日取得)。指標名は retention rate です。
[8]顧客レポートは注文履歴全体にもとづく
The data in customer reports is based on the entire order history of the new customers in the report, not only the orders that were placed during the selected timeframe. For example, if you access a report for November only, then a new customer from that month still displays as a repeat customer, even if they made their second purchase in December.
── Shopifyヘルプセンター「Customers reports」(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)
[9]Shopify ── 率が高いほど獲得コストは下がる
Higher rates reduce acquisition costs. Most stores display 20-40%.
── Shopifyヘルプセンター「Analytics data points (fields) reference」(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)。倍率の記載はありません。後段の「20-40%」は率の分布であって、コスト比の倍率ではありません(この読みは私たちのものです)。
[10]HBR ── 5倍から25倍と、その留保
Depending on which study you believe, and what industry you’re in, acquiring a new customer is anywhere from five to 25 times more expensive than retaining an existing one. (…) If you’re not convinced that retaining customers is so valuable, consider research done by Frederick Reichheld of Bain & Company (the inventor of the net promoter score) that shows increasing customer retention rates by 5% increases profits by 25% to 95%.
── Harvard Business Review(2014年/2026年8月28日取得)。中略は1文で、原文の順序は変えていません。
[11]Bain ── 金融サービスでの5%と25%超
In financial services, for example, a 5% increase in customer retention produces more than a 25% increase in profit.
── Bain & Company「Prescription for cutting costs」(Fred Reichheld 執筆のPDF/2026年8月28日取得)
[12]Braze ── 獲得コスト(CAC)の定義
Customer acquisition costs (CAC) (formula): Add up the total costs associated with acquiring new users, divided by the number of new users acquired
── Braze「Customer Lifetime Value Metrics」(2022年1月13日公開の自社記事/2026年8月28日取得)。公式ドキュメントではなく同社の記事です。
[13]Shopify ── 同じページ内で「Customers」が2通りに定義されている
Customers — Number of customers who placed an order
Customers — Number of customers in the given cohort who placed an order
── Shopifyヘルプセンター「Analytics data points (fields) reference」(2026年8月28日にブラウザ経由で取得)。前者はTop 30のセクション、後者はコホートのセクションに置かれています。
執筆者
永野 陽平
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